"pie"と"spy"の"p"は発音が違う

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僕は英語バンドル版を予約しました。初めて手にする英語DBです。

そこで、ボカロ英語DBの発音記号について調べていました。こちらのページの下の方に書いてあります→ http://ww3.enjoy.ne.jp/~koti/kaito/onsei.html

piapro studioのマニュアルの日本語・英語対応表を見てみると、「タ」の欄に、

タ   [t { ] [t V] [th { ] [th V]

とありました。右の4つの発音がすべて「タ」ということです。

[{ ]は母音の「アとエの間の音」みたいなやつで、[V]は「軽く『あっ』と言うときの、あまり口を開かないア」です。

では、子音の[t]と[th]は、どう違うのでしょうか。([th]は"think"の"th"の音ではありません)

英語では「有気音」と「無気音」は区別されない

かなり前ですが、近所の書店の古本ワゴンで「言語学入門 ──言語と記号システム──(ユアン・レン・チャオ著 橋本萬太郎訳 岩波書店)」という書籍を見つけ、安かったので買いました(1980年の本なので、300円ぐらいで売ってたと思います)。

この本の4ページにこう書いてあります。

英語のpie'パイ'のpは、息をともなって発音される、いわゆる有気音であり、spy'パイ'のpは無気音である。……ところが、ほかの言語では、この有気音のpと無気音のpとは、英語のpとbくらいちがったものと受けとられ、事実、それぞれ、p,bとつづられることがある。

初めに読んだときは、意味が分かりませんでした。パイもスパイもおんなじpやろ、と。のちに詳しく説明され、27ページにはこうあります。

Bobを逆に再生してもBobなら、tea'お茶'を録音して逆再生したら、eat'たべる'になると思われるかもしれないが、これは実際east'東'みたいな音になるのである。……teaの語頭にあるのは閉鎖音だけでなく、閉鎖がとかれてつぎの母音が来るまでに、フーッという息が聞こえるのである。だから、テープを逆にまわすと、まず母音が聞こえ、ついで気音(sのような音)が来て、その後に閉鎖音が起こるのである。そのために、この単語は全体として、eastのように聞こえるのである。

この本を読んだり、色々調べたりして分かったことは、英語は「語頭(あるいは音節の頭)のストレスのある閉鎖音(破裂音)は有気音になる」という性質があるということです。

閉鎖音(破裂音)とは、喉、舌と上あご、唇などによって、肺から送られてくる空気の通り道(気道)が完全に封鎖され、その間にも肺(正しくは横隔膜?)は空気を送ろうとするために肺・口腔内の気圧が高まり、そして一気に封鎖を開けることで瞬間的に発音する子音のことです。(説明がまどろっこしい)

すなわち、一瞬息を止めて「パーン」って発音する子音のことです。日本語だとカ行、タ行、ガ行、ダ行、バ行、パ行がこれに当たります。

「ストレスのある」とは、直後の母音にアクセント(第一アクセントまたは第二アクセント)がある状態を言います。(直後にr,lのような流音があっても、その後の母音にアクセントがあればこの条件を満たすようです。)

有気音になるというのは、例えば"pie"の発音は/pa'i/ですが(aにアクセント)、英語ネイティブ話者が発音したものをスロー再生すると、破裂音pの「パッ」という音が一瞬聞こえた後に、「アー」という母音が聞こえる前に、「ハー」という掠れた息の音が聞こえるということです。「パッ」「ハー」「アー」「アイ」みたいな感じです。

一方、"spy"の発音は/spa'i/ですが(aにアクセント)、このpは語頭ではない(語頭にあるのはs)ので、息の音は聞こえず、「パッ」という音の次の瞬間から「アー」という母音が聞こえます。「スッ」「パー」「アイ」みたいな感じです。

確証はありませんが、音節の頭の破裂音の前に来られる子音はsだけだと思います。なので、アクセント母音の前にある破裂音は、sの後に続く場合を除いて有気音になる、と考えられます。

この違いは、録音を逆再生すると分かりやすくなるそうです。

他にも、

無気音 - 有気音

I scream - icecream

That stuff - That's tough

School today - (It)'s cool today

I want the stew - I want this too

のような例が挙げられています。単語レベルの例では、peakとspeak、potとspot、takeとstake、などがあります。

英語ではこのように、有気音と無気音という異なる発音をするのに、綴り文字は全く同じであり、話者も普通はその違いを意識しません。日本語も同じく、意識しません。

ちなみに、中国語・韓国語・タイ語などは、この「有気・無気」を、はっきり異なる音として区別します。(言語学ではこれを「弁別的に用いる」とか「弁別性がある」とか言います。)

例えば、中国語で「パイ」というときに有気音で発音すれば「派(派遣する)」という言葉になり、無気音で発音すれば「拝(おじぎをする)」という言葉になります。(前述した書籍の4ページに書いてあります。)

「タイ人・タイ語」のことを英語では"Thai"と綴りますが、この"th"は、"think"の"th"と同じ/θ/の発音だというわけではなく、「タイ語における、無気音ではなく有気音の子音である」ということを示す記号として"h"がついてるだけなのです。だから英文で"Thai"を/θa'i/と発音するのはおかしなことなのです。電子辞書でも"Thai"の発音は/ta'i/と書いてあります。

この、有気音と無気音の違いが、ボーカロイド英語DBの発音記号における[th]と[t]とか[kh]と[k]とか[ph]と[p]とか[dh]と[d]とかの違いです。決して[th]は"think"の"th"とか、[ph]は"phone"の"ph"ということではありません。(ちなみに英単語のファ行で発音する"ph"は、ギリシャ語の"φ"に由来する綴りです。ギリシャ文字とラテン文字を対応付けて転写するときに、"φ"-"ph"という対応をつけて置き換えたそうです。)

さて、長くなったので、もう一つのポイント「明るいLと暗いL」についてはまたの機会とします。では。

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